杉山雄一による読み物
「さようならありがと」
付記:平成17年、夏に記述。
そう、私はとてつもなくえらいのである。
モノを大切にするのもすばらしいことなのだ。
私の電気かみそりは11年使っています。せがれが生まれた年にホーマック厚別本店で家内が買ってくれました。 生まれてはじめての名器ブラウンですよ。最高級品ではないんだけど、でも私にとってはとても贅沢な品です。
それまでは旅行用のような携帯タイプ、1000円くらいのどもならんやつを使用していたんですよ。そったら痛いの。腫れるの。なのでこのブラウン、大切に大切に使ってきました。思い出の品ですから。
これでひげをそるたびに10年間、色々あったことを思い出すんです。
この髭剃りの音が好きで「たーたい、じょりしなしゃい」と (※=「お父さん、ひげをそってください。」の意)言う2歳の息子。
ひげをそっているとその音に音程を見出して、長3度でハモって 「合ってた?」と言っていた家内の姿。いろんなことを思い出すんです。
そんなことってありますでしょ?
したっけまず3年前あたりからリチウムがへたって来ましたよ。
なんぼ充電しても4〜5分しか持たなくなったんです。
最近はコードをつないだまま使うのが当たり前になっていました。
次に「どうもひっかかるな?」と思ってよく見たっけ外刃が穴あいてたのね。磨り減ったんでしょう。純正パーツ調べましたら外刃内刃セットで2000円、リチウムで4000円だと。かんべんしてけろ。
なのでヨドバシに行ってきましたよ。1時間迷って7980円のブラウン購入。さっき試しゾリしてみましたが、まーまー最高ですね。痛くないし音は静かだし。今度はこいつと向こう10年、つきあうのかな。
もうスイッチ部分なんてすりへって、ボロボロだった旧ブラウンを手にして しばらく眺めていました。これまで長いことありがとうって思います。私を、私の家族を10年間見てきてくれた髭剃りです。
一昨年、たぶん人生最後の大暴れを画策して、まったく何のアテもなく 東京に出てきて、売れてないシンガーのバックで叩きながら試行錯誤していたときも知っています。面接のたびにこいつで剃りながら リキ入れて部屋を出て行く私の姿も見てきたんですね。東京で自己実現を図りつつ月に一度、一週間札幌に戻る暮らしが始まって1年半、常にこいつとは行動をともにしてきたんですよ。
その役目を終えて死んでしまったブラウンの電気かみそり。いままでありがとう。埋めてあげたいところだけどそうはいかないんだ。かわいそうだけどゴミとして捨てなきゃね。ほんとうにありがとうね。
ちょっとさびしい気持ちになりました。男の人ならこんな感覚を理解してくれるんじゃないでしょうか。引越し。車の買い替え。そんな時、新しい部屋に、車に浮かれつつも手を離れていったそいつらに対してちょっとさびしい、悲しい感じ。
モノに対して自分の心や取り巻く環境を投影してるんでしょうね。携帯やPCにはそんなことは思わないんですけどね。この先の10年、私はどうなっているのかな。楽しみでもありますし、それ以上に「予測以上の結果を出したい」と思った、そんな夏の一夜で御座いました。
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